易経とは
易経は、儒教の経典「四書五経」の筆頭にもあげられる経書(根本・法則)として大切にされてきました。
易経が他の古典と異なるのは「中(ちゅう)する」という、物事の解決策が書かれています。
乾為天
「龍の話」乾為天の最初に書かれているものが龍の成長のお話しです。
たった数行の短い辞句です。
乾為天
乾(けん)は、元(おお)いに亨(とお)りて貞(ただ)しきに利(よ)ろし
初九。潜龍用うるなかれ。
九二。見龍田に在り。大人を見るに利ろし。
九三。君子乾乾、夕べに惕若たり。厲うけれど咎なし。
九四。或いは躍りて淵に在り。咎なし。
九五。飛龍天に在り。大人を見るに利ろし。
九九。亢龍悔あり。
用九。群龍首なきを見る。吉なり。
地に潜み隠れていた龍が、ある過程を経て、大空に昇って飛龍になり、やがて衰退していくまでの物語が書かれています。
短い文で書かれた寓話のような物語ですが、ここには物事の成功条件と失敗条件が書かれています。
「ここに書かれているある変化の法則をしれば、占わなくても、将来を見極めて自分で出処進退が判断でき、さらには問題が起こる前に、その兆しを察知できるようになる」と書かれています。
易経と易占
「君子占わず」
君子とは徳高い王様、リーダーのことです。荀子が「善く易を為むる者は占わず」といったことに由来しており、「易経に学んだ君子は、占わなくても出処進退がわかる」ということを意味しています。
このように占いの書にして、「占わなくてもわかる」といってるところに、易経の奥深さがあるようなきがします。
易経は占いの書であると同時に、帝王学の書として、儒教の経典「四書五経」にあげられており、古代の王様は、常日頃、易経を手元に置いて学んでいました。変化をいち早く察知して、先々を判断できることがリーダーの条件とされていたからです。
このことから、現代社会においても易経はリーダー必読の要件になると思います。たとえ優秀な部下や相談相手に恵まれていても、将来を教えてくれるわけではありません。
最終的な判断は人に頼らずリーダー自身が決断しなければならず、そのような意味からも太古の先人も同じ思いだったのかもしれません。
易経を学ぶ年齢
安岡正篤は、変化の激しい時代を生き抜くために「易」を重視していました。
いわゆる俗的な解釈とは違って、易とは変化の理法を説く学問であり、人間世界の偉大な統計的研究に他ならないと語っています。
『論語』には、「50をもって易を学べば、またもって大過なかるべし」という孔子の言葉が出てきます。
50歳になると誰でも人生というものを考えるようになります。
易を通して人生を豊かにすることを探求することは、一生の宝物になると思います。
洞察力と判断力を磨く
リーダーがなぜ易経を習得する必要があるのかをお伝えします。
易経は、リーダーとはどうあるべきか、そしていかに時の変化を見極め、正しい判断をしていくべきか、ということについて書かれた書物です。
易経のはじめに書かれている龍の物語は、地に潜み隠れていた龍が、ある過程を経て、大空に昇って飛龍になり、やがて衰退していくまでの物語になぞられて、天下を治めるリーダーに成長していくための変遷のプロセスが描かれています。
このプロセスを自分に照らし合わせ、実践していくことで、リーダーに求められる要件が学べ、さらに先々を見極める洞察力と判断力を見に付けることが出来るからです。
今回の講師である竹村亞希子氏は、このことに研究に研究を重ね、時代の荒波を乗り越えてきた先人の智慧を、混迷激変する時代のリーダーに伝えることにより、世界に通用する人材の育成を目指しているとも言えます。
リーダーと部下の関係
易経はすべて、たとえ話になっています。
龍は王様のことで、現代でいえば会長社長、代表取締役など、組織のリーダーのたとえです。
しかし、組織の長だけの話しではなく、各部門や部署のリーダーなどもこのリーダーに相当します。
龍は想像上の生き物で、現実に存在する生き物ではありません。そして古来、龍はめでたいものとされてきましたが、それは龍には雲が付きものといわれ、龍には雲を呼び、雨を降らせる能力があるとされています。
恵みの雨を降らせることで、地上の万物を養う生き物として崇められています。
この龍の働きがリーダーの役目を示し、雲は部下に例えられます。
つまり、リーダーは組織の目的を明確にして、そこで働く人をある目的に向かわせることで、大きく社会を循環させて貢献することが役目であると教えています。
龍が尊ばれるのは、その能力ゆえのことですが、しかし初めから力を発揮できるわけではありません。
物語は、六段階のプロセスを経て、リーダーのあり方を学ぶことで優れたリーダーへと成長することができます。
龍の6つの物語
易経では物語の場面が変わるごとに、その変遷の様子をあらわした6種類の龍が登場します。
第一段階は、「潜龍」です。
地中深く暗い淵に潜み隠れている龍です。まだ世の中に認められるような力もなく、地に潜んで志を培うときです。
第二段階は、「見龍」です。
明るい地上に現われ、目がみえるようになります。修養のはじめとして、師を見習って物事の基本を学びます。
第三段階は、「乾惕」です。
毎日、同じことを繰り返して修養に励みます。技と応用を見に付け、日進月歩の成長をする時です。
第四段階は、「躍龍」です。
修養を極め、リーダーになる一歩手前の段階です。独自性を持って、今まさに大空へ昇ろうと躍りあがります。
第五段階は、天を翔け、雲を呼び、雨を降らす「飛龍」です。リーダーとしての能力を発揮して、志を達成します。
第六段階は、「亢龍」です。
高ぶる龍という意味です。高みに昇り過ぎた龍は、やがて力が衰えて、降り龍になります。
以上が6つのプロセスです。
易経の本文に出てくる龍の名前は「潜龍」「見龍」「飛龍」「亢龍」の4つです。
三番目の「乾惕」と四番目の「躍龍」は、竹村亞希子氏がわかりやすくするために本文に書いてある言葉にちなんで、あらわしたものです。
このように龍の物語は、リーダーの成長の王道を語っているとともに、栄枯盛衰の道理も教えています。
※「リーダーの易経」(角川新書)から抜粋